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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)287号 決定 1973年3月24日

被疑者 江口良子

主文

1  東京地方検察庁検察官親崎定雄が昭和四八年三月二二日右申立人に対してなした被疑者江口良子との接見を拒否する処分を取消す。

2  検察官は、被疑者と申立人に対し、同月二四日午後一時から、午後三時までの間、引き続き少なくとも四〇分間接見させなければならない。

3  申立人のその余の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨は

(一)  昭和四八年三月二二日午後四時、東京地方検察庁検察官親崎定雄がなした被疑者江口良子と申立人との接見を拒否する処分を取消す。

(二)  昭和四八年三月二三日同検察官のした「同日午後二時から三時三〇分までの間二〇分間に限り被疑者江口良子と申立人との接見を指定する」旨の処分を取消す。

(三)  同検察庁検察官、検察事務官、司法警察職員は、申立人が直ちに被疑者と一時間接見することを拒否してはならない。

というものであり、その理由は、要するに、昭和四八年三月二二日同検察官のした接見拒否処分、及び翌二三日にした接見指定処分は、いずれも、弁護人の接見交通権を違法に侵害するものであるからその取消を求めると共に、速やかに申立の趣旨(三)のとおり申立人と被疑者とを接見させよ、というものである。

二、当裁判所の事実調の結果によると、次の事実を認めることができる。

被疑者は、昭和四八年三月一六日殺人等の容疑ありとして代用監獄警視庁留置場に勾留された。申立人は、同月一七日被疑者と接見し、その依頼により弁護人となつた。申立人は、同月二〇日午前一一時五〇分ころ、東京地方検察庁検察官親崎定雄に対し、電話で接見申出をしたが、同検察官不在のため、同庁検察事務官に対し、同月二二日接見したい旨、並びにその旨検察官に連絡して欲しい旨依頼した。同月二二日午前一一時すぎころ、申立人は、再び同検察官に電話により接見申出をしたが、同検察官不在のためその接見指定を得ることもできず、接見することもできなかつた。

申立人は、右の接見拒否処分を不当として同月二二日、右取消を求めて、当裁判所に対し準抗告の申立をした。同月二三日午前一〇時一〇分ころ、東京地裁刑事一四部に対し、準抗告申立後の事実取調に応じている最中同検察官より「午前中に接見させるつもりである」旨の意向を聞き申立人はこれに応じるべく待機していたが、結局接見できず、同日午前一一時ころ、同検察庁に赴いたところ、申立の趣旨(二)記載の接見指定を受けた。申立人は、右指定に至る経緯とその内容につき承服できず、右指定に基く接見をしないまま、準抗告申立の趣旨を追加し、現在に至つている。

三、ところで、弁護人又は弁護人となろうとする者と被疑者との接見は原則として自由であり(刑訴法三九条一項)、検察官らは、例外的に捜査のため必要であるとき(公訴提起前)に限り、接見等に関し、その日時、場所及び時間を指定できるのに過ぎない。

従つて、本来自由な弁護人と被疑者との接見交通が制限されるのは、捜査の具体的必要がある場合に直ちに法三九条三項の個別的指定がなされた場合にのみ、その指定された日時・場所以外における接見等が、その効果として制限されるのに外ならないのであつて、検察官らの何らの接見指定行為がないのに、接見等が一般的に制限されるいわれはそもそもありえない。

従つて、三月二二日における、接見拒否処分(表面的な同庁検察事務官の行為は、同検察官の意思に基くものとみられる)は、それ自体何らの理由のない接見交通権の不当なる侵害であつて違法であるといえる。

四、次に、申立人は、申立の趣旨(二)記載の同検察官の接見指定に応じることなく、その取消を求めると同時に同(三)の内容の速やかな接見を求めている。三月二三日になした同検察官の接見指定は、それ自体としては一概にこれを違法と断じる疎明はないが、申立人が、その前段階における同検察官の接見拒否処分を不当とする余り右の接見指定に対してもこれに応じることなく、その取消を求めている事情は考慮されなければならず、本件においては当裁判所においてその前後の事情を検討の上新たな接見の指定をなし、弁護権と捜査の必要との調和を図るのが適切な場合であると考えられる。

五、右の理由により、申立人の本件申立は、右の限度において理由があるが、その余は失当として棄却すべく、刑事訴訟法四三二条、四二六条一、二項により主文のとおり決定する。

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